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オフィス、通勤の便で明暗 人材獲得へ好立地入居

 新型コロナウイルス禍で沈んだ東京都心のオフィスビル市況で、通勤に使える鉄道路線数による回復の差が鮮明だ。2路線以上のビルは空室率が下がる一方、1路線の物件は上昇が止まらない。コロナ後の深刻な人手不足の中、通いやすさを打ち出しにくいビルは企業に選ばれない傾向が強まっている。  オフィス仲介大手の三幸エステート(東京・中央)が筑波大学と共同で東京23区のオフィスビル(築1年以上)の空室率の推移を調べた。フロア面積200坪(約660平方m)以上の大規模ビルを、半径500m圏内の駅から利用できる路線数で「1路線」「2〜4路線」「5路線以上」に分けた。  2023年10〜12月期時点の空室率は「5路線以上」が2.9%と、直近ピークの22年4〜6月期(4.3%)より1.4ポイント低下した。丸の内・大手町や渋谷といったエリアだ。「2〜4路線」は3.5%で、直近ピークの23年1〜3月期(4.5%)に比べ1.0ポイント低い。  一方「1路線」の空室率は上昇が続く。直近は7.2%と「5路線以上」「2〜4路線」に水をあけられた。湾岸部の晴海周辺や青海周辺といったエリアが該当する。  空室率はコロナ禍が深刻になった20年4〜6月期以降、3区分とも急上昇した。業績が悪化した企業の解約や、在宅勤務・リモート勤務の普及でオフィス需要が減ったためだ。その後出社回帰が進み、2路線以上のビルは空室率が低下に転じた。  市況の明暗を分けたのは企業のオフィス戦略だ。三幸エステートの今関豊和チーフアナリストは、人手不足が表面化する中で「企業は従業員が通おうと思えるビルを選ぶようになった。今までになかった動きだ」と指摘する。  不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE、東京・千代田)が23年7〜8月に実施した「オフィス利用に関する意識調査2023」によると、オフィスの立地を選ぶ上で従業員の通勤利便性を「とても重要」「重要」とした割合は計93%に達した。同社は「人材獲得競争で優位に立とうとする狙いがある」と指摘する。  三幸エステートと筑波大の調査によると、リーマン・ショック後の10〜12年にも、路線数による空室率の差が「ワニの口」のように開いた。路線数の多いビルの需要回復が先行し、12年7〜9月期には「5路線以上」が4.4%と、上昇が続いた「1路線」の9.9%と大きく差がついた。  一般に経済回復が続けば、路線数が少ないビルの需要もやがて増える。「1路線」の空室率も13年以降は低下に転じた。今回は経済回復の中でも「1路線」に回復の兆しが見えない。リーマン後と違い、就業者数の増加が見込めないのが背景にある。  東京都心では大規模オフィスビルの供給が続く。23年3月には港区に「住友不動産東京三田ガーデンタワー」が竣工。同年11月には渋谷区に「Shibuya Sakura Stage」が竣工した。いずれも複数路線を利用できる好立地にある。  24年は大型ビルの供給が落ち着く見通しだが、25年3月にはJR線と都営浅草線にアクセスできる「TAKANAWA GATEWAY CITY」(東京・港)の開業が控える。激しい人材獲得競争の中、交通アクセスの良いビルヘの企業移転が加速し、優勝劣敗がさらに際立つ可能性がある。  筑波大学不動産・空間計量研究室の松尾和史氏は「『1路線』に該当する交通利便性の悪いオフィスの建て替えが増えれば状況が変わる可能性もある」と指摘するが、建設費の高騰や解体工事にも作業員の人手不足など課題が立ちはだかる。「ワニの口」の状態が定着するかもしれない。

日経 2024年04月09日朝刊

 

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