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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

「1棟改装」マンション点検 建物性能、保険の確認を

 一見すると新築分譲のような中古マンションが増えている。不動産会社が大企業の社宅や賃貸マンションを1棟単位で買い取り、リノベーション(大規模改装)して売り出すものだ。価格は新築より安いが、多くは築20〜30年の建物だけに経年劣化などが気になるところ。マンションの新たな選択肢になりつつある「1棟リノベ」の実力をさぐってみた。  三菱地所レジデンスが2017年に分譲した「ザ・パークリモアさいたま新都心」(さいたま市)。外観は現代的なシャープなデザインが目を引くが、実は築23年の社宅を1棟、大規模改装したものだ。  ファミリー向けの51戸を2,700万〜4,100万円台で完売。脇英美社長は「予算の関係で新築に手が届かない層のニーズは大きい」とみている。  中古マンションの取引は増えておりここ数年、新築の供給戸数を上回る。東京カンテイ(東京・品川)によると、1棟リノベが増えたのは2000年代から。10年以降だけで首都圏を中心に少なくとも約3,700戸が供給された。  1棟リノベは大企業が資産リストラで手放す社宅などを買い取り、建物全体を大がかりに改装して新築より安く分譲するビジネスモデルだ。京王電鉄子会社のリビタ(東京・目黒)のように専業とする中堅デベロッパーもある。  大手もここ数年で新しいブランドを立ち上げている。三菱地所レジデンスの「ザ・パークリモア」はその一つだ。大京グループは「グランディーノ」の名で4棟を分譲。東京カンテイの井出武・上席主任研究員は「大手の参入でさらに供給が増える」と予想する。  1棟リノベの分譲価格は、新築と一般的な中古物件のほぼ中間だ。首都圏で15年から18年6月までに売り出された1棟リノベの平均は3.3u当たり243万円。新築(同289万円)を16%ほど下回る。70uに換算すると、新築よりざっと1千万円安く手に入る。  ただし、不動産コンサルティング会社、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「どの程度のリノベーションをしたのか売り主によく確認したほうがいい」と助言する。もとは築20〜30年の建物だけに、維持管理が不十分だと、見えないところの経年劣化が進んでいるかもしれない。  一般に分譲マンションは築10〜15年たつと外壁や屋上などの大規模修繕をする。これに対して社宅や賃貸マンションは「コストや収益性を重視して築20〜30年でも必要最低限の応急措置にとどめる例が多い」(業界関係者)。1棟リノベに仕上げるのに必要な修繕コストがふくらむと、専有部分の設備グレードにも影響する可能性がある。  では、1棟リノベの建物はどんなモノサシで判断すればいいだろうか。  まず国の「住宅性能表示制度」で総合判定「A」を受けていることが必須だ。第三者が柱、梁(はり)など重要な建物構造や、屋上防水設備など雨漏りを防ぐ部分を検査して問題が見つからないのがAの条件。震度6強〜7で倒壊しない1981年6月以降の新耐震基準の建物でも、外壁のヒビ割れから浸水して鉄筋が腐食したりすると強度が不足することがある。  さらに建物構造や雨漏りを防ぐ部分などを対象とする5年間の「既存住宅売買かし保険」が付いているのが望ましい。不動産会社が売り主となる中古住宅は、もともと引き渡しから2年間に見つかった欠陥は法律で売り主に責任があるが、保険があればより長い期間、安心を得られる。  共用部分の設備では、給排水管の修繕について売り主に確認したい。内部のサビを取って樹脂で被膜するなどの工事が必要なことが多いからだ。  「リリファ」などのブランドで1棟リノベを900戸余り手がけてきたリビングライフ(東京・世田谷)は、物件パンフレットに「排水管高圧洗浄」など具体的な工法を明記。モデルルームでは、検査と工事の写真入り報告書を見せて来場者に説明している。  専有部分を含めた住宅としての性能は、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35リノベ」の対象かどうかで推し量れる。リノベによる性能向上が金利優遇の条件だからだ。「LDKの窓を二重サッシにしたり、給湯器をエコジョーズ(潜熱回収型ガス給湯器)に交換したりして省エネルギー性を高めることが多い」(リビングライフ)。  性能などを満たす1棟リノベは、専有部分だけを改装する1戸単位のリノベや個人が売り主となる一般の中古に比べて、品質をめぐる買い主のリスクがかなり小さい。新築志向が薄れつつある中で「1次取得層にとって当たり前の選択肢の一つになっている」(リビタ)との声が聞かれる。  もっとも企業による社宅売却は足元で一段落しており、今後は賃貸マンションの建物を活用した1棟リノベが増えそうだ。専有部分は入居者の退去にあわせてさみだれ式に工事しなければならず、販売期間も長くなるため、デベロッパーにとってはコスト高。これがリノベの仕様や物件価格に影響する可能性がある。  賃貸マンションは空室が増えて収益力が落ちている物件ほど売りに出やすい。最寄り駅から遠いなど立地に難があると、1棟リノベで資産価値を上げても将来の地価下落で帳消しになりかねない。気になる1棟リノベ物件があるなら中長期的にみても新築より割安かどうか、よく見極めたい。

日経 2018年09月29日朝刊

 

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