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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

オフィス 供給過剰鮮明 都心5区、空室率高く 大型ビルも賃料下げ圧力

 オフィス市場の供給のだぶつきが鮮明だ。新型コロナウイルスの感染拡大から1年が経過し、新しい働き方としてのテレワークが定着した。オフィス面積を減らしたり、新規契約に慎重になったりする企業も多い。賃料も下落が続き、築年数が浅い大型ビルにも下げ圧力が及ぶ。海外の主要都市も空室率が上がる傾向にある。  「1フロアでもよいので借りませんか」。ある中堅企業幹部は耳を疑った。大手不動産会社から最近入居を打診されたのは開発途上の超高層ビルで、場所は東京都中央区内の一等地だ。  新築の大型ビルは複数フロアをまとめて借りる企業を優先する。「中堅規模のテナントに1フロアからオフィスを借りてくれなんて、めったにない」。提示された賃料は1坪(3.3平方m)5万円強という。  中央区や千代田区といった都心部の新築大型ビルは、コロナ前なら同6万円ほどの賃料が多かった。ここにきて完成前のオフィスビルで、従来より安い5万円程度の提案が出ている。あるテナントは「不動産会社の営業担当者は、スペースを埋めるのに苦労している様子だった」と指摘する。  東京駅前など複数の再開発案件を抱える三井不動産は「賃料は個別交渉だが、経済バランスやマーケットの状況も考慮している」と説明する。三菱地所が6月に完成予定の超高層ビル「常盤橋タワー」(東京・千代田)なども、仲介会社によると同5万円程度の募集賃料がみられる。  新築の高層オフィスは不動産会社の大きな収益源だが、需要の見通しにくさが影を落とす。仲介大手の三鬼商事(東京・中央)によると、3月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は5.42%。供給過剰感の目安とされる5%を上回る。  感染力が高いとされる変異ウイルスヘの警戒感は根強く、働き方はコロナ前の状況には戻りそうにない。仲介大手の三幸エステート(同・中央)によると、都心5区のオフィスビルの成約面積は21年1〜2月で8%減った。大企業が主要顧客の大規模ビルは2割以上の落ち込みだ。  空室率の上昇は海外も同様だ。不動産サービス大手、ジョーンズラングラサール(JLL)によると、20年12月時点のオフィス空室率はニューヨークが12.1%となるなど主要都市で軒並み前年同期を上回る。  上昇が目立つのがニューヨークだ。19年12月と比べ、4.5ポイント高くなった。米国の都市はシカゴやロサンゼルスも同3ポイント前後上がった。  米企業ではツイッターが社員が望めば恒久的に在宅勤務を認める一方で、マイクロソフトは出社と在宅を併用するハイブリッド方式を採用するなど働き方が分かれる。コロナ感染の拡大が止まらず、在宅勤務がより選ばれている可能性がある。  パリは1.8ポイント高い6.8%。コロナの流行が続く一方、英国の欧州連合(EU)離脱に伴う欧州での拠点としてのオフィス需要が底堅いとの見方がある。2.7ポイント高い6.8%まで上昇したロンドンとは対照的だ。  賃料も抑えられている。ニューヨークが0.8%の上昇にとどまり、上海は6%、ロンドンが2%安くなった。 <REITも回復鈍く>  投資マネーも不動産市場に慎重姿勢だ。日経平均株価が一時3万円台を回復するなど活況の株式市場に比べて不動産投資信託(REIT)市場は出遅れが目立つ。特に回復が鈍いのがオフィスREITだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で急落する前と比べて足元で7割の回復にとどまる。  オフィス需要の先行き不透明感はなお強い。在宅勤務の推進で生産性が向上した企業も多く、「通勤の人出が元通りになるにはまだ時間がかかる」(みずほ証券の大畠陽介シニアアナリスト)。  代表的なREITや不動産株の指数である「FTSE EPRA Nareit Global Real Estate Index」の国・地域別指数(ドル建て)を見ると、日本は米国に比べて上値が重い。コロナ前の2019年末と比べると、東証REIT指数の上昇率は日経平均を下回る。「ワクチン接種が進まない限り、国内REIT市場の劣後は止まらない」(みずほ証券の大畠氏)

日経 2021年04月11日朝刊

 

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