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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

不動産含み益 初の減少 ヒューリック、高収益へ積極開発 値上がり資産売却に限界

  ヒューリックの高収益経営が転機を迎えている。不動産相場の上昇に乗ってポートフォリオを入れ替えて稼いできたが、利益の源泉だった含み益は2020年12月期に初めて減少に転じた。過去に購入して値上がりしたビルの売却だけで高い総資産利益率(ROA)を維持するのは難しい。デベロッパーとしての開発力が問われる局面に入った。   ヒューリックは3月、リクルートホールディングスの登記上の本社である「リクルートGINZA8ビル」(東京・中央)、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が個人所有していた「ティファ二−銀座ビル」(同)の取得を発表した。  取引金額はリクルートが約200億円、ティファニーが300億円超とみられる。 ヒューリックの不動産ポートフォリオは、1物件あたり100億円弱から数百億円の中規模ビルが中核をなしている。20年末時点の建物1棟あたりの賃貸可能面積は、住居と高齢者施設を除くと5,800平方m。三井不動産のオフィス1棟あたり賃貸面積の約3割にとどまる。  中規模ビルは同業の不動産会社や不動産投資信託(REIT)といった買い手が多く、流動性が高い。 ヒューリックは相場をみて売却して含み益をはき出す一方、新たな物件を仕入れていく。   ヒューリックが富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)の不動産管理会社だった時代から保有する古い賃貸ビルは改装や建て替えで価値を上げやすい。近年は不動産相場の上昇で売買のサイクルがうまく回り、利益成長の原動力になってきた。  新型コロナウイルス禍でホテル・旅館事業が振るわなかった前期も連結営業利益は過去最高の1,005億円に達した。このうち598億円が売却益だ。  資産を取り崩して実現した含み益を利益計上するため、ROAは分母と分子の両面から押し上げられる。前期の経常利益ベースの総資産利益率(ROA)は5.0%と、三井不動産、三菱地所の20年3月期の3%台、住友不動産の同4.2%を上回っている。  株式市場の評価は含み益を考慮した修正PBR(株価純資産倍率)に見て取れる。税率を30%とみなすと、 ヒューリックの修正PBRは約1.2倍。巨額の含み益を寝かせている三井不動産など大手3社の0.5〜0.6倍前後に比べて群を抜いて高い。  投資家が「含み益の実現可能性が高い」とみているからだ。SMBC日興証券の田沢淳一シニアアナリストは「含み益をしっかりと実現させて資産効率を高めている」と指摘する。  しかし、コロナ下でオフィスビルは空室率が上昇している。取得時期が新しい物件は含み益が生まれにくく、ポートフォリオの入れ替えによる利益成長には限界が見えてきた。前期末の含み益は3,530億円と前の期末に比べて5%減った。含み益の減少は12年に旧昭栄と合h併してから初めてのことだ。  90年代後半までに取得した含み益の大きい銀行店舗ビルは売却が進んでいる。前期末の含み益を賃貸用不動産の薄価で割った「含み益率」は23%と、ピークだった16年12月期末の30%から7ポイント低下した。  前期も東京23区内の銀行店舗ビルを系列REITに売却。20年12月の賃貸収入ベースでみると、銀行店舗の割合は16%と4年前に比べて6ポイント低下した。  成長の壁を乗り越える戦略として、20年2月に発表した10年間の中長期経営計画ではポートフォリオを銀座、新宿東口など発展が期待できる東京都心の重点4エリアに寄せていく方針を掲げた。19年12月期に簿価ベースで38%だった4エリアの比率を50%まで高める。  さらに将来的に建て替えなどで付加価値を高められるビルを積極的に仕入れる。10年間で100物件超の開発や建て替えを手がける考えで、経営計画の発表時点ですでに50物件が確定か内定していた。  吉留学社長は「容積率の割り増しを受けるなどして計画段階で含み益の増加が見込めるものもある。趨勢的には含み益が増加していく」という。重点エリアの銀座周辺では特別目的会社(SPC)を含めて約30物件を保有し、複数の開発事業が進行中だ。このほかデータセンターなど「次世代アセット」も増やしていく。  過去の成功体験と異なり、相場の上昇局面で購入した不動産が増える中、どう物件の付加価値を高めて利益を生んでいくか。これまで以上にデベロッパーとしての底力が試される段階に足を踏み入れている。

日経 2021年04月06日朝刊

 

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