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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

不動産在庫 一転リスクに 3月決算41社 10年で7割増 需要低迷、評価損の懸念

 不動産会社が抱えるマンションやホテル、施工中物件などの在庫が増えている。3月期決算企業41社の在庫を集計したところ、2020年3月期末では約4兆8,000億円と10年前比で7割増えた。低金利や販売の伸びを背景に在庫を積み増してきたが、足元では新型コロナウイルスが直撃。需要の低迷が長引けば値引きや評価損の計上を迫られるリスクが高まる。  10年3月期から20年3月期まで継続比較できる41社(非上場含む)を対象に調べた。20年3月末の在庫は4兆8,000億円と、10年で約2兆円増えた。  不動産各社は戦略的に在庫を積み上げてきた。所得水準の高い共働き世帯「パワーカップル」やインバウンド(訪日外国人旅行客)の増加を受け、都心やその周辺でタワーマンションやホテルなどの開発を活発化してきた。不動産投資信託(REIT)という売却ルートも増えた。  金融緩和が各社の借り入れ負担を抑え、在庫を急いで消化しなくても財務負担は重くならなかった。低金利は購入者側の負担も軽くし、需要を下支えした。  1年間に在庫が何回入れ替わるかを示す在庫回転率は20年3月期は1.64回で、この5年で0.25ポイント低下。大手を中心に物件を長く抱える傾向が強まっている。  ところが、コロナショックで市場が急減速した。不動産経済研究所(東京・新宿)によると、5月の首都圏新築マンション発売戸数は前年同月比82%減で単月としては過去最低の水準となった。「落ち込みが続けば、売り主はキャッシュバックや割引を検討せざるをえない」(ニッセイ基礎研 究所の渡辺布味子准主任研究員)との懸念が出ている。  大和不動産鑑定が5月に行ったアンケート調査では、全用途平均で54%がコロナ収束後の不動産価格がコロナ前よりも下がると答えた。用途別ではホテル(86%)や住宅(57%)などで下落予想が多い。「ホテルでは3割ほど値下がりする物件が出てきてもおかしくない」(国内証券)との指摘もある。  大手は「住宅の投げ売りは基本的に行わない」(野村不動産ホールディングスの芳賀真グループ最高財務責任者=CFO)と強気姿勢だが、中堅以下のホテルなどでは影響が顕在化している。トーセイは6日、新型コロナの影響で20年11月期に76億円の在庫評価損を計上すると発表。いちごは20年2月期の連結決算で74億円の販売用不動産の評価損を計上した。  リーマン後は不動産各社が資金繰りのために損失覚悟で売却を急いで利益を圧迫したが、現在は「銀行が融資を引き揚げて資金繰りに詰まる状況ではない」(SMBC日興証券の田沢淳一シニアアナリスト)。低金利は長期化しそうで、住宅購入の意欲は戻る可能性もある。  それでも新型コロナの感染が収束せず需要の低迷が長期化すれば、評価損が膨らんで体力のない中堅以下の不動産会社を中心に業績に打撃になりかねない。

日経 2020年07月11日朝刊

 

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