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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

ウィーワーク、賃借せず出店 シェアオフィス 受託運営特化 投資抑制 新手法に活路

 米シェアオフィス大手ウィーワークの日本法人は出店戦略を見直す。ビルなどを所有者から賃借してオフィスに仕立ててきたが、借りずに運営のみを受託する手法を2022年にも導入する検討に入った。受け取る収入は目減りする可能性があるが、賃料負担が軽減し、投資資金が減る見通しだ。テレワークが増え、シェアオフィス需要の拡大が見込めるなか、財務リスクを抑えながら新規出店を続ける考えだ。  ウィーワーク・ジャパン(東京・港)が導入を計画する運営のみを受託する手法は、海外では事例があり、外資系の高級ホテルが国内で採用している。受託会社がブランド、施設の運営ノウハウを持っている場合は契約が成立しやすい。  ウィーワーク・ジャパンのジョニー・ユー最高経営責任者(CEO)が、日本経済新聞の取材で出店戦略を見直す考えを示した。早ければ22年から新手法での出店を始める。現在、国内では38カ所のシェアオフィスを展開しており、新手法をてこに「100〜200拠点規模まで増やす」(ユーCEO)としている。いまは東京や大阪への出店が多いが、札幌、広島など地方都市への出店を目指す。  新手法の導入の目的は、必要資金を抑えながら新規出店を継続するためだ。ユーCEOは具体的な枠組みは今後固めると説明するが「高級ホテルの手法を参考にし、物件の所有者から運営のフィーを受け取るかたちを検討する」としている。  これまでの賃借方式では、シェアオフィスを利用する企業などからの収入はウィーワークが受け取れる半面、ウィーワークは物件オーナーに多額の賃料を払う必要がある。物件を整備する投資資金もウィーワークが拠出する。  一方、新手法では、ウィーワークは物件オーナーからフィーを受け取るかたちになるとみられるが、賃料、投資資金の負担は減る見通し。枠組みや契約内容によって収入は減る可能性があるが、必要資金が減り、事業リスクを抑えられる。  シェアオフィスは、最寄り駅に近いなどビジネスマンにとって便利な立地が求められる。ウィーワークは具体的な賃料の水準は明らかにしておらず、広さや場所でも異なるが、都心5区の平均賃料から試算すると、オフィスの候補になりそうな物件の賃料は月間数千万円はかかるとみられる。  18年に日本で初の拠点を設け、国内シェアオフィスの普及役となったウィーワークだが、市場競争は激しくなっている。競合の三井不動産は20年3月時点で約50カ所だった自社のシェアオフィスを22年3月までに150カ所以上に増やす計画。野村不動産も27年度に150拠点にする方針だ。  ウィーワークは、直近にディー・エヌ・エー(DeNA)やクックパッドが本社を移すなど大型成約も続いたが、契約会員数自体は2万超でほぼ横ばいが続く。  競合に負けずに成長していくためには新規出店が欠かせない。シェアオフィスの需要はこれから増大していく見通しで、競争は正念場だ。  新型コロナウイルス下で、従来型の本社オフィスなどへの出勤は減った。テレワーク勤務が増えるなか、在宅勤務を補うかたちでシェアオフィス、サテライトオフィスなどの利用を増やそうとしている企業は多い。  不動産市場の供給側の事情も、シェアオフィスなどの拡大に向けた追い風となる。企業が本社など自社オフィスを縮小する動きが相次いでおり、空いたスペースがシェアオフィスなどとして貸し出される事例が増える可能性があるからだ。オフィスビル仲介大手の三鬼商事(東京・中央)がまとめた8月の東京都心5区の空室率は6.31%と、供給過剰の目安となる5%を7カ月連続で上回った。都心のオフィス空室率は25年にリーマン・ショック後の水準を超えるとの見通しもある。  シェアオフィスを含む分散型のレンタルオフィスで構成する「フレキシブルオフィス」の20年時点の累計拠点数は、ザイマックス不動産総合研究所(東京・千代田)によると、東京23区で571件となった。19年に比ベ3割増えた。21年以降は762件に増える見通しという。  ウィーワーク本体の収益状況は厳しい。19年に経営不振に陥り、米本国を含め、世界各国でなお収益改善の途上にある。同社が3月に投資家向けに公表した資料によると、ウィーワーク本体の20年12月期の最終損益は32億ドル(約3,500億円)の赤字だった。  ウィーワークに対しては、傘下のファンドなどを通じ米本体に出資するソフトバンクグループ(SBG)が再建を支援している。米ウィーワーク、SBGのグループが折半出資する日本法人も支援 を受けているが、収益はなお赤字とみられる。資金負担を抑えながら業容を拡大する必要に迫られており、今回の見直しにつながったもようだ。  新手法では、ウィーワークのリスクが減る一方、物件の所有者の収益の振れ幅は大きくなる可能性がある。安定収益を上げられる物件の目利きに加え、シェアオフィスの草分けとして培ってきたブランド力や施設の運営ノウハウが問われることになりそうだ。

日経 2021年09月20日朝刊

 

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