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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

家庭の太陽光電力 争奪戦 新電力、大手の最大3円高で 住宅・小売り、商機狙う 固定価格買い取り制度 順次終了

 家庭用の太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の期間が11月以降に順次終わるのをにらみ、電力の安定調達や集客につなげたい新電力や小売りなどの企業が相次いでいる。買い取り価格の設定も多様で、争奪戦の様相となってきている。政策的な支援がなくなった太陽光発電をどう生かすかの試金石の一つになりそうだ。  家庭用の太陽光発電でつくった電力の余剰分を買い取る制度は2009年11月に始まった。買い取り期間は10年のため、期限を迎える家庭が今年11月以降に出てくる。期限後に発電した電気は「卒FIT」とも呼ばれる。太陽光の卒FITは19年だけで53万戸、出力量は200万キロワット。23年までの累計で670万キロワットになり、接働率は異なり単純比較はできないが原発7基分に相当する。該当する家庭は新たな売電先を決めるか、蓄電池を導入し自家消費する必要がある。  大手電力各社は4月末から卒FITの買い取り価格を続々と公表している。代表的なプランの場合、関西電力は1キロワット時あたり8円、中国電力が7.15円、四国電力が7円と軒並み7〜8円で並ぶ。東京電力ホールディングスなどは6月ごろに価格を公表する予定だ。  買い取り制度の初期に太陽光発電を始めた家庭は48円で売電しており、買い取り価格が大幅に下がることになるが、業界関係者の間では「想定通りの水準」との声が多い。電力会社同士が電気を売買する日本卸電力取引所(JEPX)の価格が目安となっているためだ。 余剰電力が出る日中は6〜11円で取引されることが多い。二酸化炭素(CO2)を排出しない再生可能エネルギーであることを考慮し、大手電力各社の家庭からの買い取り価格は7〜8円となったようだ。  新電力は大手電力で最大3円高の価格を設定する。出光興産は傘下の太陽光パネル子会社ソーラーフロンティアと組み、7.5〜8.5円で買い取る。太陽光発電システムを手掛けるスマートテック(水戸市)は10円だ。新電力はJEPXから電気を調達することが多く市場価格の変動で経営が不安定になりやすい。契約時に価格を決められる卒FITで調達量を確保し経営安定にもつなげる狙いがある。  大手や新電力も含め電力を小売りしている事業者は、CO2排出の少ない電気の販売比率を30年に44%以上にするよう求められている。卒FITの買い取りは目標達成のために再生エネの比率を高める狙いもある。  一方、住宅メーカーや小売りも商機をうかがう。積水化学工業は自社で建てた「セキスイハイム」の住宅で太陽光発電設備があれば9円、蓄電池も備えていれば12円で買い取る。積水ハウスも自社物件は11円だ。両社とも買い上げた再生エネは自社で使い、環境に配慮した経営を加速する。  住宅各社は太陽光発電設備のある家を把握しており、営業コストを抑えられる。高値で買い上げても「これまで(電力会社から買っていた)電気代の範囲内で吸収できる」(積水ハウスの石田建一常務執行役員)。顧客との接点を増やし、リフォーム需要などの取り込みにもつなげたい考えだ。  小売りではイオンが中部電力と協力して卒FITを買い取り、自社の店舗で使う方針。買い取った電力量に応じ、同社グループでの買い物時に使える共通ポイント「WAON(ワオン)ポイント」を付与し、集客にもつなげる考えだ。  消費者からすると7〜11円の買い取り価格は、FITよりも大幅に低くなる。ただ現時点では蓄電池を導入して自家消費に充てるよりも、安い価格でも売電した方が経済的なメリットがあると言われている。より高く売れる企業を選ぶ視点も重要になってきそうだ。 【欧米、自家消費の動き 日本は蓄電池価格カギに】  欧米では家庭用の太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)などの優遇策が縮小されている。売電するメリットが薄れ、家庭では蓄電池を設置して電力をためて自家消費する動きが広がっている。  日本がFITのモデルとしたドイツでは買い取り費用の一部を電気料金に上乗せする賦課金は1家庭あたり年間3万円程度と、日本(約1万円)を大きく上回る。電気料金が上昇したため、太陽光と蓄電池を導入して電力会社から購入する量を抑えようとする家庭が増えているという。蓄電池にたまった余剰電力を融通し合う新サービスも生まれている。  米国でも太陽光発電が増え電力需要の多い夕方に需給バランスがとりづらくなることが問題となっている。カリフォルニア州などでは優遇策が廃止・縮小され、蓄電池を設置して自家消費する家庭が増えている。  日本はFITで家庭用の買い取り価格を高めに設定したため、これまでは余剰電力を売電する家庭が多かった。家庭向けで一般的な蓄電池が100万円前後と高く、電気料金の削減では吸収しきれず、自家消費の促進につながっていなかった。  パナソニックは住宅向けに約3キロワット時の小型蓄電池を年内にも発売する予定。蓄電容量を主力製品の約半分にした一方、販売価格を抑えることができる見通しだ。蓄電池が家庭で普及すれば販売価格の下落もさらに進む見込み。「2020年にも蓄電池への投資を回収できるようになる」(業界関係者)との見方もある。  関連ビジネスを模索する動きもある。三井物産と九州電力は米社の技術を使い複数の太陽光発電設備と蓄電池をまとめて制御し、大型発電所のように稼働させる仮想発電所(VPP)の実証実験を今春に始めた。発電した電力を効率良く消費するサービスの構築などにつなげたい考えだ。

日経 2019年05月08日朝刊

 

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