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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

空き家「予備軍」 東名阪330万戸 「高齢者だけ居住」2割強 中古物件流通、依然少なく

 大都市に空き家の「予備軍」が大量に潜んでいる。65歳以上の高齢者だけが住む戸建てとマンションの持ち家が東京、大阪、名古屋の三大都市圏に合計336万戸あり、同圏内の持ち家全体の2割強に達することがわかった。現在の空き家比率は7%。家主の死後も相続人が入居しないことが多く、古い家屋は買い手がつきにくい。中古住宅の流通を促進しないと空き家が大都市であふれてくる。  総務省の住宅・土地統計調査(2013年)から65歳以上だけが住む戸建てを抽出し、空き家予備軍とみなした。賃貸が多いマンションは高齢者のみの住戸数に自治体別の持ち家比率をかけて試算した。すべて空き家になるわけではないが、高齢者の住宅は潜在リスクが大きい。  全国の持ち家3,179万戸に対し、空き家予備軍は22%にあたる705万戸。三大都市圏はこの48%を占め、世帯数の全国比に匹敵する。単身高齢者が急増しており、高齢化が空き家問題が先行した地方の実情と似て きた。三大都市圏の賃貸などを除く空き家は107万戸で、割合は7%にとどまっていた。  予備軍が最も多いのは東京都の67万戸で、持ち家の21%。現在の空き家は15万戸で5%だ。空き家数でトップの大阪府も予備軍は51万戸で、その比率は東京都を上回る22%。神奈川、千葉も2割を超す。三大都市圏は住居の密集度が高く、空き家発生の影響は大きい。  三大都市圏の予備軍を10万人以上の市区でみると千葉県我孫子市が28%で最も高い。空き家は7%だが、戸建て1万戸に高齢者だけが住む。東京駅まで電車で1時間の地域として1970年代に開発が進んだが、当時の世代は退職し、亡くなる人も増えた。40年前から夫婦で住む70代の男性は「都内の子供らは戻らない。私たちが死んだら空き家になる」と話す。市民生活部によると「相続人が住まずに空き家になる事例が目立つ」。  予備軍比率の上位には、東京都町田市や兵庫県川西市など郊外都市が並ぶ。アパートで新婚生活を始め、庭付き戸建てにたどり着く「住宅すごろく」を理想とする世代の持ち家が多い。開発が進む都心部の比率は低いが木造住宅や古いマンションの密集地もある。一橋大学の斉藤誠教授は「空き家問題は都心部にも押し寄せる」と警告する。  空き家があちこちにできる現象は「スポンジ化」と呼ばれる。居住密度が下がると水道やゴミ収集など行政サービスの効率が悪化する。これを防ぐには中古住宅流通を促す必要があるが、国土交通省によると住宅流通に占める中古の割合は米国83%、英国87%に対し日本は15%だ。  背景には根強い新築信仰がある。高品質な住宅に手を加えて長く住む欧米の価値観と対照的だ。日本政府は経済効果を狙い、税優遇などで新築購入を後押ししてきた。着工数は今も年100万戸規模だ。規制が強い英国の新築は16万戸にとどまる。  不動産の助言会社、スタイルアクト(東京・中央)の沖有人社長は「日本でもリフォーム市場を活発にする必要がある」と語る。木造戸建ては築22年になると税務上の資産価値が認められず、改修資金を借りにくい。これが欧米と比べて改修投資が極端に少ない理由だという。「改修後の実質的な価値で資産評価すべきだ」と沖氏は訴える。改修資金の借り入れに新築と同様の税優遇を求める声もある。  住宅の用途変更規制を緩めるのも一案だ。中古住宅を店舗やカフェ、オフィスなどに今よりも転換しやすくなれば買い手は増える。官民ともに新築偏重の姿勢から脱却することが大都市で空き家の大量発生を防ぐカギとなる。

日経 2018年06月23日朝刊

 

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