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太陽光発電価格 引き下げで紛糾 政府 国民の負担を軽減 事業者 遡及適用は理不尽

 太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の見直し方針が波紋を広げている。政府は2012〜14年度に認定を受けたまま発電を始めていない案件で買い取り価格を減額する方針だが、過去の計画に遡って条件を変更することに一部の発電事業者から異論が出ている。国民負担を軽減するという大義名分はあるものの、制度への不信感が広がれば再生可能エネルギーの普及に向け禍根を残しかねない。  買い取り価格を21円に引き下げる−−。経済産業省が10月22日に提示した省令の見直し案は未稼働案件に厳しい条件を突き付けた。  メガソーラーなど事業用の発電施設では、つくった電気を固定価格で大手電力会社に売っている。FIT導入直後の12年度は1キロワット時あたり40円。13年度に36円、14年度は32円と減額されたが、18年度(18円)に比べると高い。12〜14年度認定の未稼働案件について、送電網に電線をつなぐ工事の着工申し込みを電力会社が19年3月までに受領しなければ買い取り価格を大幅に引き下げる。  FIT導入時に高い買い取り価格にしたのは東日本大震災後の電力不足を補い、太陽光発電の普及を促すため。ただ当初は発電開始の期限がないという制度の「穴」もあった。そのため太陽光パネルの価格下落を待ち、利益を増やそうと考える事業者が続出。買い取り価格が高い認定案件を転売するブローカーも出るなど「太陽光バブル」とも呼べる様相を呈した。  経産省は今回の制度見直しについて、「再エネの主力電源化に向けて国民負担軽減は待ったなし」との立場だ。  12〜14年度に認定された未稼働案件は2,352万キロワットと、17年度までに認定された事業用太陽光の約3分の1に相当する。再エネの買い取り費用の一部を電力価格に上乗せして家庭や企業に転嫁する賦課金は既に約2.4兆円と、消費税1%分にのぼる。見直し対象の未稼働案件が動き出せば約0.7兆円が上乗せされるとみられ、「30年度に3.1兆円」としていた当初見通しに大幅に前倒しで到達しかねない。  また電力会社は認定された太陽光のために送電線を空けている。未稼働案件が送電線を押さえる状況が続けば風力や地熱などの開発の妨げになる。  ただ過去の案件に遡及して減額することに異論も出ている。  「一律に買い取り価格を変えるのは理不尽」。米ゴールドマン・サックス系の発電会社、ジャパン・リニューアブル・エナジー(東京・港、JRE)の竹内一弘社長は異論を唱える。14年に土地利用権などを取得したが、環境影響評価(アセスメント)に3年かかり22年に運転を始める予定の案件が減額される可能性がある。ベーカー&マッケンジー法律事務所の江口直明弁護士は制度変更の対象となる案件は合計1兆円を超えるとみる。  過去に遡及して条件を変更する前例がつくられることについて、ある上場企業の担当者は「政府が約束を覆すとは法治国家とは思えない」との声も上げる。見直し案について21日まで募集しているパブリックコメントで8日時点で経産省に寄せられたコメントのうち9割は反対意見という。  もっとも異例の制度見直しには訴訟リスクも伴う。稼働済みの案件も含めて買い取り条件を見直したスペインでは訴訟が相次ぎ、政府が損害賠償を命じられた。  東京大学の高村ゆかり教授は「企業の投資意欲が低下するため、過去に遡っての変更はよほどの理由に限られるべきだ。今回の措置はやむをえないが、適正に事業を進めている案件については申し込みの受領期限を延ばすなどの措置が考えられる」と指摘する。  政府は臨時国会で洋上風力の開発を促す法案の成立を目指している。多様な再エネヘの投資熱を冷まさないためにも、企業が腰を落ち着けて取り組める環境づくりが不可欠だ。

日経 2018年11月22日朝刊

 

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