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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

不動産投資への過剰融資を抑制 金融庁、銀行の審査体制を点検 個人向け、不良債権化防ぐ

 金融庁は地方銀行などを対象に投資用不動産向け融資の実態調査に乗り出す。超低金利や不動産市況の好転を背景に、賃貸用不動産の経営を始める会社員らが急増。返済能力を超えた過剰な融資をしていないか、銀行の審査体制を中心に検査・監督で厳しく点検し、行きすぎを防ぐ。不良債権予備軍が増えれば金融システムを揺るがしかねないと判断し、早期に手を打つ。  近く公表する2018事務年度(18年7月〜19年6月)の行政方針に具体的な方針を盛り込む。調査結果に基づいて立ち入り検査も実施する。  スルガ銀行の第三者委員会が9月、個人客に対して、不適切な不動産投資融資が全社でまん延していたと認定したことが背景にある。スルガ銀の例は氷山の一角だと指摘する専門家も多い。  金融庁はここ数年、相続税の節税対策として広がった貸家の建築資金融資をめぐり、監視の目を強めてきた。賃貸需要が少ない地域で物件を建てさせたり、空室増で想定した家賃収入を得られなかったりする例が増えている。ローンを返済できず土地・建物を手放す事例もある。これらは土地を持つ富裕層への融資が中心といえる。  18事務年度では、土地所有者の節税対策に絡んだ融資だけでなく、土地を持たず、自己資金も乏しい会社員ら個人への融資にも照準を合わせる。  ひとつの視点になるのは、過剰な額を融資していないかどうかだ。銀行が自己資金を含めて個人の返済能力を適切に評価して融資額を決めているのか、融資後も返済原資となる賃料収入の推移を正確に把握しているのかなどを点検する。  会社員らは土地と建物の代金をほぼ全額借り入れで調達するため、借入額が億円単位に膨らみやすい。家賃収入で返済できるうちはよいが、入居が減れば給与や金融資産で穴埋めせざるを得ず、経営は不安定になる。  銀行の担保評価のあり方も点検する。実勢を大幅に上回る価格に基づいて融資している場合、銀行は担保を処分しても融資を全額回収できず、焦げ付くリスクが高まる。各銀行に一律の担保評価を求めることはしないが、評価手法が適切かどうかを検証する。  スルガ銀が多額の融資をした女性用シェアハウスでは、運営会社の破綻で所有者の賃貸経営が行き詰まった。所有者は実勢を大幅に上回る価格で物件を取得し、売却しても借入金を完済できない状況に陥った。  スルガ銀のシェアハウス向け融資は多くが不良化し、担保評価手法も疑問視される。金融庁は同様の過剰な融資を黙認すれば、銀行の不良債権が膨らみかねないとみている。  「チャネル」と呼ばれる不動産の販売を手がける業者と銀行との関係も詳しく調べる。スルガ銀では、借り入れ希望者との間に販売業者が入って、審査書類を改ざんしたり、ニセの契約書を作って多額の融資を引き出したりしていた。  銀行にとって業者は新規の顧客を紹介してくれる存在ともいえるが「悪用されるリスクもある」(金融庁幹部)。販売業者の説明をうのみにせずに、物件価格や家賃が実勢相場に照らして適正か、借り入れの希望額が過大でないか、銀行が主体的に確認しているかも調べる。  日本全体で貸家への融資残高は23兆円弱。リーマン危機直後の09年と比べて2割増え、地銀のシェアは6割強を占める。超低金利や人口減で地銀の経営環境は厳しい。経済基盤が弱い県の銀行はスルガ銀に追随し、首都圏などで不動産融資を無理に増やした例も多い。スルガ銀のような不適切融資が他の地銀でも広がっていれば、金融システムは大きなリスクを抱えていることになる。

日経 2018年09月26日朝刊

 

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