マンションの空き家問題が深刻な影響を及ぼしている。管理組合が機能せず、基礎的な修繕もできない物件が水面下で増えている。東京都が管理状況の届け出を義務化する条例案を20日開会の定例議会に提出するなど、自治体も対策に乗り出した。だが、空き家増加が管理不全をもたらし、さらに空き家が増える負のスパイラルを食い止めるのは容易ではない。
埼玉県のある住宅地のマンション。建物の中央部の外壁が剥落しているのにシートさえかけられず、鉄骨がむき出しになっている。こんな危険な状態が既に半年以上、続いている。関係者によると、住民は生活しているものの管理組合はなく、壁の修繕を話し合う会議さえ開けないという。
管理組合が機能しないマンションが陥る危機を示す例だが、マンション管理のコンサルティングなどを手掛けるさくら事務所(東京・渋谷)の土屋輝之氏は「あと数年で珍しくなくなる」とみる。組合がなければ基本的な管理さえままならないが、都の2011年の調査では、6.5%の物件が「管理組合がない」と回答。未回答の物件を追加で抽出したら、「ない」と答えた割合は15.9%にも上った。
組合がなければ、危険な損壊が放置されたり、管理不全の隙を突いた侵入者による犯罪の温床になったりするリスクがある。住民だけでなく周辺地域にも悪影響が出る。
都の条例案では、管理組合や管理規約の有無などを提出させ、マンションに組合の設立を支援したり運営方法についてマンション管理士らが相談に乗ったりする。都に先駆けて届け出を義務化する条例を施行した豊島区は、未届けのマンションに区職員や管理士らが訪問。組合が機能するよう支援している。従来、組合から要請があった場合に限り支援してきた横浜市は18年度から、不安のあるマンションには要請がなくても市職員や管理士らが訪れている。
ただ、解決への道は平たんではない。マンションの空き家の拡大が背景にあるからだ。総務省によると、戸建ても含めた空き家の数は13年10月時点で約820万戸。うち半数超の約471万戸が分譲マンションに賃貸アパートなども加えた共同住宅だ。さらに、このうち約173万戸の建築時期が分からず、専門家からは「老朽物件がかなり多い」と問題視されている。
全国で空き家の管理を担うNPO法人、空家・空地管理センターの上田真一代表理事は「老朽マンションは戸建てよりも空き家の状態が長期化しやすい」と話す。
戸建てもマンションも空き家となる理由で多いのは、親などからの相続だ。ただ、所有者が通常は1人の戸建てなら、建物を解体して土地のみを売却するといった選択肢があるが、他人と共有のマンションでこうした処分の方法はほぼ不可能。結果的に老朽マンションは貸したり売ったりできずに「塩漬け」され、空き家が放置される。
空き家が増えたマンションは管理組合の理事を担う人手も、管理費や修繕積立金も減っていく。自治体の対策は所有者への聞き取りや支援が柱で、空き家が増えて所有者さえいないのでは実効性が乏しくなる。
日本では1970年代後半ごろからマンションの供給が増加。国土交通省によると、17年末に約73万戸だった築40年超の物件は37年末には352万戸と約5倍になる。
マンション空き家に歯止めはかけられるのか。戸建てや賃貸マンションなど所有者が単独の空き家では、リノベーションの後に新たな居住者を募ったり、オフィスや店に転用したりという改革が進み始めた。同じ取り組みを複数の所有者が存在し、調整も難しい分譲マンションで広めるには工夫が必要だ。
上田氏は、所有者の死後に空き家になる可能性が高い部屋を、自治体や管理組合へスムーズに寄付できる仕組みづくりを提案する。寄付される側の負担は増すが、所有者が不明・不在の状態を防ぎ、対策を講じる態勢が整う。「マンション管理は所有者の責任という従来の常識にとらわれない発想が求められる」と上田氏は話す。
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