耐震設備の一部である「構造スリット」が設計図面通りに施工されていない鉄筋コンクリート造マンションが全国各地で見つかっている。直ちに倒壊する危険性はないが、地震が起きれば重大な被害につながる恐れもあり、国土交通省も情報収集を始めた。不備の原因となっている部材はそもそも施工が難しく「多くの物件で不備が生じている可能性がある」と指摘する専門家もいる。
2004年に完成した東京都江東区の分譲マンション(約140戸)では、現在行われている大規模修繕工事中に構造スリットの未施工が判明した。このマンションを詳細に調査した結果、約1,600カ所のうち、3割弱の約450カ所で設置されていなかった。
このマンションの建設会社によると、原因は調査中で、第三者機関による検証を行うという。建設会社と販売会社ともに過去にも複数の物件で同様の不備が見つかっている。販売会社は問題を受け、大規模修繕工事を実施していない約300件の調査を始めた。
ほかの大手の建設会社や不動産会社が施工、販売した愛知県や横浜市のマンションでも構造スリットの未施工や設計図面上の位置からずれて設置されている不備が判明している。施工の難しさや、設計図面からの見落としなどが原因とみられる。
構造スリットに詳しい都甲栄充・1級建築士によると、建築過程で構造スリットを設置し、接する柱や壁の型枠にコンクリートを打ち込むと、圧力などで本来設計していた位置からずれることがある。住民どころか業者も不備に気づいていないケースが多いという。
都甲氏は「壁がひび割れることもあるが、外観からは確認できないため、多くの物件で問題が埋もれている可能性がある」と指摘する。自身は12物件で不備を確認したといい「補修が必要でないケースもあるが、あるべき構造スリットがなかったり、鉄骨に触れたりしている場合は構造計算の前提が崩れるため直す必要がある」と話す。
国交省は不備が明らかな物件について情報収集し、自治体に改修方法などを指導する方針。担当者は「なぜ設計図通りに施工されていないのか原因を調べる必要がある」と話す。
NPO法人「建築Gメンの会」の大川照夫理事長(1級建築士)は「直ちに地震で倒壊する危険性は低いが、耐震性に関わるため、構造計算し直して問題がないか調べるべきだ」と指摘。「震度6強を超える地震が起これば柱や壁が破損する不具合が出る可能性がある」とみている。
【構造スリット】
地震の揺れで建物が損壊しないよう、柱と壁、壁と床などを構造的に切り離すために設ける2〜5cm程度の隙間。クッションの役割を果たす緩衝材として発泡ポリエチレンなどを入れることが多い。
1995年の阪神大震災では、柱と壁が衝突して建物の破壊を引き起こすケースが多かった。日本建築センターは震災後、再発を防ぐために構造スリットを推奨する方針を示し、全国のマンションや学校、病院などの鉄筋コンクリート造の建物で広く採用された。
ただ、2011年の東日本大震災後に被害を受けたマンションで構造スリットの施工に問題があったケースが見つかっていた。
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