不動産だよりロゴ

不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

コンパクトシティーに逆行 インフラ負担減らず 自治体、郊外開発を黙認

 人口減時代に向けたコンパクトな街づくりが進まない。住宅や商業・公共施設を中心部に誘導する計画を作った自治体が、郊外の開発案件すべてを事実上黙認している実態が日本経済新聞の調べで判明した。3割の市町は郊外開発の規制を緩めている。人口が減るのに生活拠点が拡散すると財政負担が膨らむ。都市の衰退を避けるため、より効果的に街を集約する制度が必要になってきた。  国の推計では2045年に74%の市区町村の人口が15年比2割以上減る。かたや地方を中心に地価が安い郊外開発が進み、公共インフラが後追いする「スプロール現象」が止まらない。このままでは自治体の税収が減るのに過剰ストックの維持費だけがかさむ。  このリスクを抑えるのがコンパクトシティーの形成だ。 都市密度を高めれば1人あたりの行政費用を減らせる。国土交通省は14年度から補助金などを通じ、具体策となる「立地適正化計画」の策定を自治体に促した。同計画は「居住誘導区域」と、店舗や病院、学校などを集める「都市機能誘導区域」を設定。区域外の開発に届け出を義務づけ、建設の変更を事業者に勧告できるため、無秩序な開発を止める効果に期待が集まっていた。  日経は17年末までに計画を作った116市町に進捗を問う調査表を送付。聞き取りを含め全市町の回答を得た。そこから浮かんできたのは計画の実効性が乏しい実態だ。  1月末までに誘導区域外で開発届けがあったのは全体の56%にあたる65市町で、計1,098件。うち32市町、件数で58%が何も手を打たなかった。制度説明や規模縮小の依頼など「情報提供・調整」をしたのは42%だったが、建設計画を変えた事例はなかった。  届け出が175件と最多だったのは熊本市だ。事業者に情報提供もしなかった。農地から宅地への転換のほか、診療所や大型店の建設も進む。 熊本地震で被災した市民病院の移転先は都市機能誘導区域外だ。担当者は「適当な土地がなかった」と釈明する。  水戸市は福祉施設や保育所など誘導対象の郊外開発が12件あった。「駐車場を確保でき、地価が安い郊外に事業者は流れる」のが実情で、区域内の新設はないという。  勧告は神奈川県藤沢市のマンションに対する1件だけ。津波で浸水の恐れがある地区だった。ただ地下住戸の取りやめを求めただけで、立地は元の計画のまま。本来の趣旨に沿う対応とは言いがたい。  「勧告など使える手をもっと使うべきだ」と説くのは京大の諸富徹教授だ。勧告に強制力はないが「誘導区域外の新規開発地区への行政サービスを後回しにするくらいの姿勢を見せなければ、むやみな郊外開発は止まらない」。  だが調査では郊外開発を抑えるどころか、アクセルを踏んでいる実態も見えた。本来は法的に都市開発を厳しく制限する「市街化調整区域」。要件さえ満たせば宅地や店舗を開発できる独自の規制緩和を温存する自治体があるのだ。  立地適正化計画を持つ自治体の3割の34市町が規制を緩めていたと回答。札幌や富山、岐阜など22市町が緩和をやめない方針を示した。9市町が「見直す予定で検討中」で「(緩和を)撤廃した」は1市、「一部撤廃」は2市にとどまった。  規制再強化に及び腰なのは対象地区の住民が増えにくくなり、街の集約に反発が起きかねないからだ。05年に4市町が合併した兵庫県たつの市は過半が調整区域に住み「地域コミュニティー維持には規制緩和は必要」と訴える。  もちろん各市町では誘導区域に施設や住宅が立地する事例はある。ただ郊外開発を容認したままでは水道やゴミ収集など行政サービスの負担は増し、根本問題は消えない。  東工大の中井検裕教授は「立地適正化計画は中心拠点以外の地域をどうするかの視点がない」と指摘する。居住誘導区域外は新規立地規制を厳しくするのも一案という。  米国の一部都市では中心部に移る人に補償金を出す制度や、空き家を自治体が保有し利用希望者に渡す仕組みがある。コンパクトな街づくりのため自治体にもっと強い手段を持たせる時期にきている。

日経 2018年04月21日朝刊

 

Copyright (C) ADvance Forward Co.,Ltd. All Rights Reserved.