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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

マンション 管理不全防ぐ 住人の合意形成に貢献も

 マンション管理組合の業務を効率化するスタートアップのサービスが広がってきた。スマート修繕(東京・渋谷)は工事会社の実績などを分析し、大規模修繕の依頼先探しを手助けする事業を始めた。管理や修繕を巡り、組合内で意見が割れることも少なくない。客観的なデータを活用した新興勢の試みは、住人間の合意形成の進展につながる可能性もある。  1月に設立したスマート修繕のサービスは、大規模修繕を計画する管理組合と工事会社をマッチングする。修繕実績や財務などのデータが優れた35社程度の工事会社を選び、その中から最大3社の相見積もりを取れるようにする。  それぞれの見積もりと工事案に対してスマート修繕の担当者が内容や費用を分析し、専門知識に乏しい組合でも比較しやすく整理する。スマート修繕は工事会社から送客手数料を受け取るため、組合は無料でサービスを利用できる。  修繕後に工事会社に対する組合のレビュー(批評)データも公開し、今後の工事会社を選ぶ参考にしてもらう。スマート修繕はDeNA系のベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けている。事業面でも連携し、DeNAが持つデータ分析の知見を生かす。  マンションを取り巻く環境の変化は激しい。国内では築40年超のマンションは2020年末に100万戸を超えた。国土交通省の予想では30年末に約232万戸、40年末は約405万戸に増える見通しだ。マンションが老朽化すると一般的に高齢の住人が多くなるとされ、修繕工事や資産価値に関する情報の収集は難航しかねない。  国交省の18年度調査によると、修繕積立金が「計画に対して不足か、余剰かが不明」という回答が3割を超えた。基礎情報の把握にさえ苦労する組合の姿が浮かぶ。信頼できる情報が集まらないと組合内の話し合いが滞り、合意形成は一段と難しくなる。スマート修繕は「客観的データは組合の議論を活発化する効果もある」とみる。  日常的な管理データに着目する動きもある。不動産コンサルタントのさくら事務所(同・渋谷)は6月中旬にも、管理計画と資産価値の相関性をリポートするサービスを始める。組合の管理レベルを客観的に評価し、将来の売却価格などへの影響を分析する。  たとえば、共用施設が豪華なのに管理費の設定額が過度に低いと「資産価値の維持力が弱い」と評価する。さくら事務所は建物検査やグループ会社を通じた不動産仲介も手掛けており、グループの知見を集約して多角的な分析に生かす。まずは首都圏の新築マンション向けで始め、ほかの都市圏や既存マンションにも順次拡大する。  不動産スタートアップのFFP(同・港)も既存マンションを対象に、理事会の開催頻度や防犯カメラの設置状況などから管理レベルを評価する事業を手掛けている。マンションの流通価格や賃料に関する複数の外部データも集め、管理状況との関係を報告する。  21年に試験提供を始め、すでに約20組合ヘリポートを提出した。今後は大手管理会社などを通じて顧客を増やす計画で、「1,000組合ほどへの拡大は早期に達成できる見通しだ」という。  老朽マンションの管理や修繕が不適切なまま放置されると、影響は多方面に及ぶ。不動産市場での流通が難しくなり、所有者が満足できる価格で売却しにくくなる。新たに住まいを探す人にとっては購入物件の選択肢が狭まる可能性がある。  外壁がはげ落ちたり、耐震性不足のまま放置されたりすれば、国や自治体が対応を迫られる可能性がある。組合の情報収集を手助けするサービスは、こうした管理不全を防ぐ第一歩となり得る。  もっとも、専門家からは「データの収集・分析には時間がかかる。マンション情報のオープン化が長期的な課題になるだろう」(東京カンテイの井出武・上席主任研究員)という指摘も聞かれる。新興勢の取り組みはマンション管理の未来図にも影響を与えそうだ。

日経 2022年06月08日朝刊

 

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