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木密地域、解消道半ば 首都圏直下地震、死者4割火災原因 面積半減、初期消火にカ 建て替え問題、大阪でも

 東京都が25日に公表した首都直下地震の被害想定で、都市部の防火対策の課題が浮かび上がった。最大6,148人に上る死者の約4割(2,482人)が火災で亡くなるとされ、木造住宅密集地域の被害が顕著だ。都は建て替え費用の助成などの対策に取り組んでいるが、市街地の燃えにくさを示す「不燃領域率」は10年前に掲げた目標値の70%に届かず、対策は道半ばだ。        「ついの住み家を建て替える気にはなれない」。東京都台東区の谷中地区で築35年の木造住宅に住む女性(80)は話す。隣家との距離は数十cm。地震が起きるたびに家が揺れ、建て替えた方が安全だと感じているが、夫(86)と2人の年金暮らしで、資金に余裕はない。  区の担当者によると、谷中地区には関東大震災や戦災を免れた木造住宅が数多く残る。不燃領域率は2021年12月末時点で50.8%。高齢世帯や借地の上に家を建てた人が多く、建て替えに前向きでない人が多いという。都と区は14年から建て替え費用などの一部を助成しているが、担当者は「建て替えが十分進んでいるとはいえない」と打ち明ける。  都の被害想定では、都心南部でマグニチュード7.3規模の地震が起きると、都内の建物の4.1%にあたる最大約11万8千棟が焼失し、火災による死者は2,482人に上る。耐火性のある建物の整備が進み、建物焼失数と死者数は12年の前回想定から約4割減ったが、被害はなお甚大だ。  都も手をこまねいていたわけではない。12年には市街地の延焼の危険性がほぼなくなるとされる不燃領域率70%を目標に掲げ「不燃化10年プロジェクト」を開始。重点的な対策が必要な地域を「不燃化特区」に指定し、老朽化した建物の撤去費の助成や、建て替えた建物の固定資産税の減免などを進めてきた。  07年に都内で約1万6千haあった木密地域は、17年に約8,600haに半減したが、特に甚大な被害が想定される整備地域(計28地域)の不燃領域率は64.0%(20年度)で、目標値の70%には届いていない。整備地域別でも目標値を超えたのは5地域のみ。60%台は「墨田区北部・亀戸」(墨田・江東両区)など15地域あり、50%台も「羽田」(大田区)や「阿佐谷・高円寺周辺」(杉並・中野両区)など8地域ある。  都防災会議地震部会会長の平田直・東京大名誉教授は「都にも弱点がある。象徴的に言うならば、依然として『木密』があることだ」と強調した。  木密地域の解消は全国的な課題だ。大阪府には密集市街地が982ha(21年度末時点)ある。府は14年、府内7市にあった計2,248haを20年度末までに解消する目標を掲げたが、守口市を除く6市に未解消地区が残る。府の担当者は「土地と建物の所有者が違ったり、所有者が不明だったりする例もあり、古い木造住宅の建て替えが進まない」と語る。  土地や建物は権利関係が複雑な場合もあり、木密地域の解消には時間がかかる。火災による被害を減らすには、地域の防災力を高めて、出火の抑制と初期消火に取り組むことが欠かせない。  都が25日に公表した「防災・減災対策による被害軽減効果の推計」は、感震ブレーカーの設置を含めた電気を要因とする出火への対策率を現在の8.3%から25%に増やし、初期消火率を36.6%から60%に引き上げれば、火災による死者数を2,482人から807人に減らせるとの試算を示した。焼失棟数も約11万8千棟から約3万9千棟に減るという。  感震ブレーカーは、地震の揺れを感知して電気の供給を自動的に遮断する機器で、住宅への設置が進めば電気による出火を減らせる。地域住民や自主防災組織が初期消火を機動的に行えば延焼を防げる。推計では、こうした対策をさらに進めると死者数は293人、焼失棟数は約1万4千棟まで減らせるとの見通しも示した。  都市防災に詳しい東北大災害科学国際研究所の村尾修教授は「木密地域の被害を減らすには建て替えだけでなく、防災意識の向上や日ごろの訓練が欠かせない。高齢化が進む中、若い世代を地域防災にどう巻き込むかや空き家問題の解決が重要になる」と指摘している。

日経 2022年05月28日朝刊

 

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