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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

小屋がつくる新たな交流 家・職場以外の居場所探る

 「小屋」が人々をひきつけている。新型コロナウイルス禍でリモートワーク用の個室ニーズが高まったことがきっかけだが、単なる仕事場にとどまらず、人と人との縁を生む場所になっている。  東京都内の不動産投資仲介会社に勤務する成島和也さん(43)が建てた3坪ほどの小屋は、家族や友人の憩いの揚だ。  キャンプ場のコテージをイメージして小屋を建てたのが2020年7月。木製の3段ベッドも自作した。妻や2人の娘と2カ月に1回はキャンプに行っていた成島さんも、新型コロナウイルス禍で機会はめっきり減り、小屋がアウトドアの中心になった。  今では家族のほか、購入先の展示場で知り合ったログハウス好きの仲間も泊まりにきて、DIYなどの話題に花を咲かせる。小屋を媒介につながる相手は消防士やIT関係など、バックグラウンドは様々。成島さんは「学生時代のような友達付き合いが大人になってもできることを小屋を通じて知った」と話す。  こうした小屋の売れ行きは好調だ。  住宅ブランド「BESS」を展開し、ログハウスの小屋を販売するアールシーコアも21年1?11月に132棟が売れ、20年比で2割増。16年の発売以来、年間最多を更新する見通しだ。  人気の背景にあるのは、機能性に重きを置いてきた住宅のあり方を見直す動きだ。  戦後の住宅不足の解消に役立ったのが家族が集うリビングと両親、子どもの寝室がある「nLDK」(nは部屋数)という間取り。狭い空間でいかに機能的な生活が提供できるかが主眼だったが、コロナ禍ではむしろ窮屈さを強く感じる声が広がっている。  不動産調査会社、東京カンテイの井出武上席主任研究員は「リモートワークの拡大でプライバシーが保たれる個室の考え方が重視されている」と指摘。「小屋や離れのように、家でもオフィスでもない第三の場所を求める傾向が今後も強まる可能性はある」という。  小屋を自己実現の場ととらえる人もいる。  黄色や赤など色とりどりのドライフラワーのブーケが壁にかかる。21年7月に開業した広島県尾道市のドライフラワーショップ「mon bijou(モンビジュー)」。代表の松谷希さん(32)が店鋪に選んだのが、自宅の庭先の小屋だ。  「休日も遊びに出られず、家に引きこもっていた」。平日は看護師として病院で勤務する松谷さん。コロナの感染拡大で職業柄、外出できない日々が続いた。閉塞感を打ち破るため思いついたのが、好きだったドライフラワーの店を始めることだった。  探した店舗は賃科に加え改装費が200万?300万円かかる。夫から「非現実的」と諭された。そんなときネットで見つけたのが小屋だ。価格は約150万円で固定費も少なく、ローンで返済すれば経営も成り立つと考えた。  松谷さんは「小屋がなければ踏み切れなかった」と笑う。  コロナ禍で顕在化した小屋ブーム。だが下地は10年ほど前から作られてきたとの指摘もある。  「小屋を作る本」などを手がけるキャンプ(東京・江東)の設楽敦編集長によると、東日本大震災後、大量生産と大量消費が特徴の現代社会の持続可能性への懐疑が起こり、「小さな暮らし方」が注目された。  そして2年近いコロナ禍。「外出できずに人々の心が抑圧される中、非日常の空間がほしいという気持ちが高まり、裾野が広がった」と分析。その上で「人のつながりを小屋が再構築する現象も起きている」と話す。  マンション内の小部屋を「離れ」として設置した集合住宅が販売されるなど、小屋需要は戸建ての所有者だけに限らない。車でけん引する小屋も登場するなど、潮流は加速しそうな勢いだ。  人間に「不自由」を求めるウイルスは、今までの暮らしや人間関係の再考を促した。感染症への不安が続く時代に自由を得るにはどうすべきか。人々が小屋で見つけたものは、その小さな解なのかもしれない。 コロナ禍で募る閉塞感「地方に関心」3割  新型コロナウイルス禍では住む場所への関心の変化も起きている。NTTデータ経営研究所が2021年12月に公表した調査ではコロナ禍で地方移住への関心が高まったことが裏付けられた。  調査はインターネットで正社員や公務員らを対象に実施し、男女1,035人から有効回答を得た。居住地は東京23区などの首都圏と大阪市、名古屋市。  地方移住に関心があるとしたのは全体の約3割で半数近くが「コロナ禍を機に関心を持った」と回答。回答者全体のうち勤務先でテレワーク制度が整備されているのは6割超だ。  地方移住後の就業の意向では「主にテレワークで現在の職場で勤務を続けたい」とする回答が4割超となり、在宅勤務ができる環境が整ってきたことが後押しした格好だ。  移住先候補を選ぶ理由(複数回答)では「自然環境の豊かさ」が約5割と最多で、「自身の趣味を楽しめる環境だから」も3割弱に上る。閉塞感から抜け出したいという心理がうかがえる。

日経 2022年01月04日朝刊

 

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