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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

電脳マンション 長谷工の柱に 気象・暮らしのデータ収集 修繕・新築設計に活用

 マンション建設最大手の長谷工コーポレーションは、建物が各種センサーで情報を集める「電脳マンション」を開発した。気象や室内環境のデータから補修時期を判断し、住民の 生活パターンから必要な設備を提案する。マンションを建てて終わるのではなく、データ蓄積拠点として生かすビジネスモデルに転換する。  東京都板橋区にある学生マンション「フィール アイ レジデンス」。入居者が共同玄関に近づくと顔認証カメラが判定し、ドアが開く。壁の大型モニターには「○○さん、おかえりなさい」というメッセージと、宅配ロッカーの荷物の有無が表示される。エレベーターに乗れば自動設定で居住階に着く。3月に完成したこの物件が電脳マンションの第1号だ。  屋上には気象センサーがあり、ピンポイントの温度や湿度を入居者に伝える。地震センサーが揺れを感知すると離れて住む家族に通知が送られ、食料などを蓄えた倉庫が自動で開く。機能を充実させた分、同様の物件に比べ家賃を月額1万円ほど高く設定した。  一連のデジタルサービスは「LIM(リビング・インフォメーション・モデリング)」と名付けた。池上一夫社長は「建設業は建てて終わりの時代ではない。生活者の様々な情報を一括集約し、新サービスや業務改善に生かしていく」と話す。居住者向けサービスにとどまらず、管理や修繕、次の物件の設計にまでデータを反映させるビジネスモデルを目指す。  例えばドアに内蔵したセンサーで開閉回数をカウントし、住民の暮らし方によってドアの劣化スピードがどう変わるかを検証する。気象センサーでは、例えば海に近い建物にどれだけ潮風が当たれば外壁が傷むかといった傾向が分かる。  これまでは国土交通省のガイドラインに従い一律の基準で補修しており、まだ使える部材を早く交換する場合があった。修繕や建て替え時期の傾向をつかめば、物件によっては12年ごとの大規模修繕を15〜20年に伸ばすことも可能になる。  館内での入居者の動きも有用な情報だ。例えば入退館の履歴から在宅勤務をする入居者が多いと判断できれば、共用会議室をテレワークスペースに改装するといった活用法を提案できる。  不動産経済研究所によると2019年度の首都圏のマンション発売戸数は前年度比22%減り、27年ぶりに3万戸を割った。首都圏での施工シェアを約4割まで拡大してきた長谷工も、19年度は受注高が減り減収減益となった。競争力を再び強めるためLIMにかける期待は大きい。  データはマンションの設計に使うシステム「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」とも連動させる。3次元CGで描くため直感的に構造がわかり、使った建材のデータも全て登録できる。20年度からの新規物件は全てBIMによる設計だ。  修繕時に新しい建材の無線自動識別タグを読み取れば、BIMに瞬時に反映される。修繕履歴とマンションがさらされてきた環境を示すLIMのデータを照らし合わせれば、条件が似た物件の劣化予測や新規物件の設計に生かせる。  課題はデータをどれだけ多くの物件で集められるかだ。子会社でサービス事業を手掛ける長谷工アネシス(東京・港)の榑松行雄執行役員は「面展開すればさらに多くの情報が集まり、地域差を加味した分析ができる」と話す。新規物件やグループ会社で管理を手掛ける約4千棟の既存物件へLIMの導入を急ぐ。  2号物件として21年9月に完成予定の「コムレジ赤羽」(東京・北)では、廊下など館内の人の動きを人感センサーなどで把握。効果的な位置に掲示板を配置したり、子供が多く通る場所には消火器などの障害物を置かないようにしたりすることを想定している。  シニア向け、分譲など物件によって機能を変えていく。将来的には住民のデータを病院と共有して健康管理に生かすなど「サービスに応じて定額料金をいただくサブスクリプション方式も可能」(池上社長)とみる。 (「売った後」が競争に 全入居者の合意が課題)  モノを売って終わりではなく、デジタル技術を活用したアフターサービスで差別化する。そんな動きが業種を問わず広がっている。例えば米テスラの電気自動車はソフトを自動でアップデートし、購入後に運転機能などが高まる。ゲーム業界ではソニーや任天堂がオンライン機能でソフトの魅力を高める月額課金サービスを展開している。  長谷工も「建てて終わり」からの脱却を狙う。人が長い時間を過ごすマンションは、他の商品以上に多様なデジタルサービスを提供する場となり得る。  一方で特有の難しさもある。ひとつが全入居者の合意だ。新規物件なら興味がある人に入居してもらえばいいが、既存物件の場合はデータ収集に抵抗感がある人にも納得してもらう必要がある。ネットワークに侵入されて1棟丸ごと犯罪に巻き込まれないよう、サイバー攻撃への対処も不可欠だ。

日経 2020年11月26日朝刊

 

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