新型コロナウイルスの流行で新築一戸建て住宅の需要が伸びている。在宅勤務の普及で仕事用の部屋の確保のしやすさなどが評価されている。建売住宅最大手の飯田グループホールディングス(GHD)は4〜9月の販売棟数が前年同期比で1割増え、10月以降も2桁の伸びが続く。ただ景気の冷え込みで個人所得は減少傾向。好調な販売が続くか見通しにくい。
飯田GHDの販売棟数は緊急事態宣言が発令された4月は前年同月割れだったが、5月以降プラスに転じた。10月以降も前年同月比で約20%増の勢いが続く。
購入層は子どもがいて初めて住宅を取得する30代が6〜7割を占める。最寄り駅から徒歩10〜15分ほどの物件やバスを利用するなど「駅近」とは言えない立地でも成約がみられる。都内では延べ床面積90平方m程度で4千万円弱が中心価格帯だ。
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、4〜9月の新築マンションの専有面積の単価は東京23区で1平方m121.99万円。23区外は同84.7万円。建築費などの上昇でマンション価格が高止まりするなか、飯田GHDは割安感のある価格で需要を集めつつある。同社の西野弘常務取締役は「戸建ては1階と2階に空間を分けられ、日常生活とは別に仕事用の空間を作りやすい」と話す。
国土交通省の調査では、一戸建て分譲住宅(建売住宅)の着工は19年が約14万戸。約28万戸の一戸建て持ち家(注文住宅)の半分だ。ただ地価が高い首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は持ち家が約5万6千戸に対し分譲は約6万3千戸、住宅市場での存在感は大きい。
首都圏を中心に建売住宅などを手がけるオープンハウスの販売も4月は39%減だったが、5月は43%増と大幅なプラスに転じた。7〜9月は前年同期比で48%伸びた。
同社は駅から比較的近い50平方m程度の狭い土地に3階建て住宅を建てるのが特徴。延べ床面積は90平方m程度が多く4,500万円前後が中心だ。主な購入者層は飯田GHDと同じく30代だ。今後は未開拓だった関西圏で戸建てを供給する方針だ。
新型コロナの流行で自宅で過ごす時間が増え、居住空間の広さを求める消費者が目立つ。同社の都内の建売住宅の購入者からは「在宅勤務が増えることを見越し、書斎などが作りやすい戸建てを選んだ」(30代男性)、「子どもたちが遊びやすい広いリビングが欲しかった」(30代女性)といった声が聞かれる。
東京カンテイ(東京・品川)によると首都圏の新築分譲一戸建て(木造、土地面積100平方m以上300平方m以下)の発売戸数は、9月まで12カ月連続で前年同月を上回った。特に新型コロナの流行が深刻化した4月以降は伸びが目立つ。6月は前年同月の3倍に達した。10月は前年を下回ったものの前月並みを維持する。
根強い戸建てへの需要について、東京カンテイの井出武・上席主任研究員は「販売は引き続き好調だが、供給し過ぎで調整局面が訪れるかもしれない」と指摘する。
冬賞与の減額や不支給が相次ぎ、個人所得の落ち込みで購入マインドが冷える可能性もある。飯田GHDはスーパーに近いなど利便性が高く売れ残りにくい用地の仕入れを進める。在庫管理など需要急減に目配りした戦略も必要になりそうだ。
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