オフィス賃料の上昇が鮮明だ。日本経済新聞社のオフィスビル賃貸料調査によると、2019年下期の東京の新築ビルの賃料を示す指数は3年続けて前年同期を上回り、リーマン・ショック前の水準に迫る。IT(情報技術)企業をはじめオフィスの需要は強く、空室率は歴史的な低さだ。ただ米中貿易摩擦による企業業績の悪化が、賃料上昇を抑える可能性もある。
賃貸料から算出したオフィスビル賃貸料指数(1985年2月=100)は東京の新築ビル(築後1年未満)が192.28。前年同期比で23.89ポイントの大幅な上昇となった。直近のピークだったリーマン・ショック前の07年下期の水準(195.58)に次ぐ。既存ビル(築後1年以上)は153.59で、前年同期を8年連続で上回る。
仲介大手の三鬼商事(東京・中央)によると、都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の9月の空室率は1.64%で過去最低だった。18年11月以降は1%台の底ばい状態が続く。賃料は前月より71円高い2万1,855円となり、69カ月連続で上昇している。
東京都心の賃料の上昇や空室率の低下をけん引しているのは、大規模な再開発が続く「渋谷」や「虎ノ門」などの地区だ。いずれもIT関連企業などが集積する。
1日、JR渋谷駅の真上に「渋谷スクランブルスクエア東棟」が開業。周辺で最大級のオフィススペースだが、サイバーエージェントやミクシィなどが入居し、満室だ。
12月には東京メトロ日比谷線新駅「虎ノ門ヒルズ駅」と直結する「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」が完成予定だ。フェイスブックジャパンなどが入り、ほぼ満室での稼働が見込まれている。
不動産サービスのザイマックス(東京・港)は「業務効率化に向けた拠点集約のため交通利便性の高い大型物件の人気が強い」と指摘する。オフィス需要は根強く、テナントが移転したフロアも、すぐに次の借り主が契約するケースが目立つ。都心のオフィスの新規供給は高水準で推移するなか、空室が発生しにくい状態だ。
米中貿易摩擦の長期化などで世界経済が減速し、日本企業も製造業などで業績の下振れが目立ち始めた。仲介業者からは「メーカーなどには賃貸借契約の更新時に賃料の引き上げに難色を示す借り手も出ている」との声も上がる。
渋谷スクランブルスクエアといった大規模物件のテナントとして存在感を高めるシェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーが経営難に直面している。事業展開の勢いが鈍ればオフィススペースの消化に時間がかかり、空室の増加につながるとの見方もある。
|