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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

中古住宅の診断 普及せず 仲介業者・売り主消極的 流通増狙った法改正、あっせん制度不発

 中古住宅を安心して売買するために専門家が建物の劣化などを調べる「インスペクション」(建物状況調査)。国は4月、取引を仲介する不動産業者に、売り主や買い主に対し建物調査制度を紹介することを実質的に義務付けた。だが、改正法施行から半年以上たっても普及率は1%に満たないというデータがある。普及を阻むものは何か。  「半年間、調査の依頼はまったくなし」。関東を地盤にする中堅不動産業者の社長は打ち明ける。法が定めた調査は、国の指定講習を修了した建築士が基礎や外壁のひび割れや雨漏りの有無など、住宅の劣化・不具合状況を調べるものだ。  不動産業者は住宅売買の際、この制度を売り主と買い主に知らせる必要があるが、「手間がかかるだけで契約に結びつかない。積極的に調査を促す気はない」。  この業者が特別なわけではない。不動産業者を通じて依頼を受ける立場にある建物調査大手、さくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長も「改正法による依頼増加はほとんどない」と話す。  改正法の主眼は中古住宅の流通促進だ。新築住宅は2000年施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、主要構造部分などについて10年の保証がある。欠陥があれば買い主は売り主の責任を追及できる。  一方、中古住宅は売り主が個人の場合、保証は2〜3カ月の短期が主流。中には全く売り主が責任を負わない条件の取引もある。  不動産仲介業者が保証を付ける取引もあるものの、買い主側のリスクは大きく、それが中古住宅流通が盛り上がらない要因の一つとされる。売買前の調査で物件の状態がわかればトラブルが減り、より安心して中古住宅を購入できる。  国士交通省によると日本の住宅流通に占める中古住宅のシェアは約15%。80%超の国もある欧米に比べると圧倒的に低い。日本の世帯総数は23年をピークに減少に転じる見通しなのに、新設住宅着工戸数は過去数年、毎年90万戸を超えている。  国交省は法改正後の状況をまだ公表していない。リクルート住まいカンパニー(東京・港)によると、住宅検索サイト「SUUMO」で調査済みの物件数が中古住宅に占める率は9月時点で戸建てが0.65%、マンションが0.37%。原因は不動産業者と売り主、買い主の3者にありそうだ。  不動産業者にとっては、調査で不具合が見つかれば成約件数が落ちる可能性がある。「不動産業者に調査を勧める動機が見当たらない」(リクルート住まいカンパニー)  売り主も同様だ。不動産業者から制度を紹介されて建物調査を実施した結果、構造部分などに不具合が見つかれば物件の価値が落ちてしまう。  住宅取引の独特の慣行も壁となる。中古住宅の買い主は物件の購入申し込みをした後、不動産業者と媒介契約を結ぶのと同時に重要事項説明を受け、売買契約を締結する。「サインするだけの段階になって、初めて不動産業者から調査制度を案内される例が多い」(長嶋氏)  調査自体は目視が原則なので3時間程度、費用は数万円で済む。買い主にとって大きな負担ではないが、業者を選定したり、売り主から調査への同意を得たりするのに何日も要し、売買契約は延期になる。関心があっても二の足を踏む買い主は多い。  国交省は「現在、施行後半年間の状況を調査中」。その後にどんな手立てを講じるかなどは「検討中」という。  今後はバブル期に大量供給された住宅が次々と築30年を超えていく。中古住宅流通が進まないままでは、13年で既に820万戸ある空き家が一段と増えかねない。  野村総合研究所の榊原渉グローバルインフラコンサルティング部長は「建物調査が浸透している米国では、開示情報に基づいて自己責任で売買する意識が個人にも根付いている」と話す。  調査は売り主の物件の価値を担保し、買い主に安心感を与えるものだ。榊原氏は「不動産業者の義務を増やすだけでなく、中古住宅を売買する個人の意識改革を促すような施策も必要だ」と指摘している。

日経 2018年12月01日朝刊

 

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