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所有者不明地 権利放棄で打開 官民、みなし制度も検討 受け皿組織負担も

 所有者が分からない土地が増えている問題で、一定条件のもとで所有権を放棄させることを可能にする制度づくりが動き出した。民間の有識者組織が25日に議論を始め、放棄地を管理する受け皿の公的機関をつくる案などが浮上した。九州の面積を上回る規模となった所有者不明の土地。権利放棄が解消に向けた「妙薬」になるのか。難題も多く曲折がありそうだ。  「昨年で成果を上げて(研究会を)閉じようと思ったが、検討すべき項目があった」。25日、民間有識者らでつくる所有者不明土地問題研究会の会合。座長の増田寛也元総務相はこう述べ、放棄制度実現に意欲を示した。  研究会の推計によると、所有者不明の土地は2016年時点で約410万ha。九州本土よりも広く、その後も膨らんで40年には北海道本島に迫るという。放置すれば累計で約6兆円の経済損失が生じるとも試算する。  政府は同研究会の昨年の提言を受け、所有者が分からなくなっている土地を利活用する特別措置法の成立にこぎ着け、1日に総合的な不明土地対策案もまとめた。  土地の放棄制度はこの政府案で日環大の焦点となる。所有権を放棄できるかは現行法に明確な規定がない。そこで、長期間放置された土地は所有権を放棄したとみなす制度や、所有者が管理できない土地の所有権を自主的に放棄できる制度を検討する。政府は20年までに法整備をめざす。  政府や研発会メンバーの中には、放棄制度が不明土地問題の抜本的な解決策になるとの期待がある。増田氏は会合後、「潜在的な需要が非常に大きいという意見が出た。具体論に踏み込み、現実的に動く仕組みを考えたい」と強調。今後は具体的な制度や、放棄された土地を管理する受け皿組織「ランドバンク」の検討に着手。19年1月にも提言をまとめ、政府案に反映させたい考えだ。  論点は多い。みなし放棄の場合、憲法上侵すことのできない財産権との関係がある。どういった場合に可能なのか慎重な検討が必要なほか、どの程度の期間放置された土地を放棄とみなすのかなどを詰めるのは難しい。  土地取引の理念を定めた土地基本法は所有者の責務の規定がない。「土地を手放したい人が急増するような事態を法律が想定していない」と国土交通省幹部は話す。放棄制度以前の問題として所有者が果たすべき責務を明確にする必要がある。  自主放棄の制度は、いずれ所有者不明になる恐れのある土地を想定した措置だ。ただモラルハザードを懸念する声が既に出ている。所有者が投機目的で購入後、大幅に値下がりした土地の放棄を認めれば、管理責任や税負担逃れに利用されかねないとの指摘がある。  関係省庁のある幹部は「受け皿の組織が担う管理負担は重い」と指摘する。25日の会合でも自治体関係者らから「何でも持ち込まれるようになっては困る」との声が上がった。放棄地の受け皿となる組織を国や自治体の負担で運営する場合、税金の使途として賛否が外かれる可能性が高い。

日経 2018年06月26日朝刊

 

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