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所有不明地 公園や施設に 公益利用認める特措置法成立 知事判断で10年間

 所有者が分からない土地の利活用を促す特別措置法が6日の参院本会議で成立した。都道府県知事の判断で最長10年間の「利用権」を設定し、公園や仮設道路、文化施設など公益目的で利用できるようになる。ただこうした土地の面積は九州本土よりも広いと推計されており、公益目的の利用だけでは問題の根本的な解消に遠い。民間による利用拡大を進める施策などが必要になりそうだ。  今回の特措法は所有者不明土地問題の対策の第1弾となる。来年の6月までに施行される。  利用権を設定できるのは、建築物がなく、反対する権利者もいない土地。市町村が公園や仮設道路にしたり、公益目的であることを条件にNPO法人などが直売所や駐車場などを造れるようになる。持ち主が現れた場合は期間終了後に原状回復して返すことになるが、現れなければ期間を延長することも認める。  道路や町づくりなど公共工事の妨げになっている土地について、都道府県の収用委員会の審理を経ずに取得できるようにする対策も盛り込んだ。  地方からは利用権について「県内では直売所や文化施設などで需要が見込まれ、歓迎している」(長野県建設部)との声が上がっている。収用手続きの簡素化についても「公共工事にかかる時間やコストを減らせる」(同)という。  ただ所有者不明の土地は九州本土よりも広いと推計されている。問題を根本的に解決するには、公益目的だけでなく、商業施設や住宅など民間利用が欠かせない。ニッセイ基礎研究所の塩沢誠一郎氏は「特に都市の中心市街地では需要が見込まれるため、民間参入を促す仕組みを検討することが重要だ」と指摘する。  政府は対策の第2弾として、2020年までに国土調査法や土地基本法の改正を視野に入れた施策も進める方針だ。土地所有者の把握を進めると同時に、新たに所有者不明の土地が発生しないようにすることが狙いだ。  具体的には、所有者の氏名や住所が正確に登記されていない土地について、登記官に所有者を特定する調査権限を与える。また、自治体が把握できる所有者の死亡情報と国が管理している登記情報を結び付け、誰が現在の所有者なのか迅速に調べられるようにする。  所有者が分からなくなるのは、相続した人が所有者が替わったことを土地の登記に記載しないことが大きな原因だ。このため対策では、現在は任意となっている相続登記を義務づけることを検討する。土地基本法には「所有者の責務」を明記する方向だ。  所有者が土地所有権を放棄できる制度も検討する。ただ自民党内からは「税収減につながる」「放棄し放題になる」などと懸念する声がすでに出ている。放棄された土地を誰が管理するのか、管理する費用を誰が負担するのかなど具体的な制度設計を巡る調整は難航することが予想される。  所有者が分からない土地は現状のままだと高齢化の進展に伴い、爆発的に増えることが懸念されている。  増田寛也元総務相らの研究会の試算では、16年時点で約410万haあり、九州本土よりも大きい。対策を講じないままだと40年に北海道本島(約780万ha)に迫る規模になるという。同年時点までの経済損失額は累計で約6兆円を見込む。

日経 2018年06月07日朝刊

 

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