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不動産・住宅関連【新聞各紙記事スクラップ】

「海外不動産で節税」包囲も 18年度改正では制限見送り 高所得者活用に当局注視

 給与所得控除の見直しやたばこ増税、森林環境税の創設。2018年度の税制改正では比較的高所得のサラリーマンヘの増税が目立った一方、使えなくなるとみられていたある節税策が制限を免れた。海外不動産への投資を通じ発生させた赤字を、日本国内の所得に合算して税負担を圧縮する手法だ。今回は優先度が高くなかったため見送られたが、今後は見直し対象になる可能性がある。  この手法は、米国や英国など海外の中古住宅を購入して賃料収入を得つつ「減価償却費(=赤字)」も発生させて所得を圧縮するというもの。海外不動産から生じた赤字を個人所得の総額から差し引く対象にできるという、日本の所得税法の仕組みを活用している。  所得税率は課税対象となる年間所得が1,800万円以下なら33%だが、この額を超えると40%になる。例えば所得2,000万円の人が、海外不動産投資で300万円ほど「赤字」を出せば最終的な税率を抑えられる。  特に効くのが高所得のサラリーマン。各国の資産課税に詳しいネイチャー国際資産税の芦田敏之代表税理士は「企業のオーナー社長より、外資系証券など高額給与所得者の利用が多い」と話す。  欧米の建物の平均寿命は日本より長い。一方で日本の税法の計算方法では、法律上の耐用年数を過ぎた中古建物の使用可能年数は4〜9年程度。これを欧米の物件にも当てはめ、あと10年以上は使える物件の価値を4年程度でゼロにして書類上の損失を出すという節税策が、富裕層を中心に活用されているという。  欧米では建物の価値が日本より高く、賃料も稼げる。不動産会社以外にもコンサルタントなどが参入し、節税目的の海外不動産投資が静かな盛り上がりを見せていた。  こうした手法を苦々しく見ていたのが、会計検査院だ。日本の税法での建物の使用可能年数の考え方が「国外にある物件には適合していない恐れがある」とし、富裕層が多い東京・麹町税務署管内などの延ベ2万8千人超の確定申告書を分析して実態を調査した。  その結果、賃料収入を上回る減価償却費を計上し損失を出している例が多いと分かった。「損益通算して所得税額が減ることになり、公平性を高める検討が必要」と指摘し、16年には見直しを求める検査報告も出した。  不動産業界は、この節税策が「間もなく使えなくなる可能性がある」とみて駆け込み営業を展開した。分譲大手が17年秋に実施したセミナーに出席した男性投資家も「18年以降に制度が変わる可能性への言及があった」と話す。  だがフタを開けると、今回は “温存”された。制度変更では他に優先度の高い項目が多かったためのようだ。減価償却制度を海外不動産の耐用年数を踏まえたものに変えるには大幅な作業も伴い「それなりの時間がかかる」(減価償却制度を担当する財務省の税制第3課)。過去には、検査院が10年に問題を指摘した中小企業への租税特別措置の見直しが17年までずれたこともある。  それでも財務省の担当者は「検査院報告は重く受け止めており、海外不動産の実態把握がまず必要」と強調。節税策を放置するつもりはないようだ。数年単位の時間がかかりそうだが、見直しが実現すれば、日本の高所得者層による海外不動産の取得動向も変化してきそうだ。

日経 2018年01月15日朝刊

 

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